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9-12 面会時間終了後 2

last update Last Updated: 2025-06-05 20:04:22

思わず翔が黙ってしまうと、朱莉が心配して尋ねてきた。

「どうしましたか? 翔さん、もしかして傷が痛むのですか?」

「い、いや。大丈夫、何でもないよ」

「そうですか? ならいいのですけど」

すると病室のドアがノックされた。

「失礼致します、鳴海さん。御加減はいかかでしょうか?」

ドアを開けて病室の中へ入って来たのは年若い看護師だった。

「初めまして、鳴海さん。本日から明日迄お部屋の担当をさせていただく藤井と申します。よろしくお願いします」

そして蓮を抱きかかえている朱莉の姿に気が付いた。

「あ……もしかすると奥様でいらっしゃいますか?」

「はい、そうです。どうぞよろしくお願いいたします」

朱莉もお辞儀を返した。

「あの、これから術後のチェックと問診と診察がありますので申し訳ございませんが奥様は外でお待ちいただけますか?」

するとそれを聞いた翔が朱莉に声をかけた。

「朱莉さん、今日はもう帰っても大丈夫だよ。蓮も疲れたんだろう。随分眠そうにしているし……」

「でも……」

朱莉は腕の中の蓮を見た。確かに眠そうにうつらうつらしている様子の蓮がいた。

「そうですね。すみません、それではレンちゃんを連れて帰りますね」

「ああ、そうしてくれ。それに別に謝ることじゃないよ」

翔の言葉に朱莉は笑みを浮かべると藤井に挨拶をした。

「それでは私はこれで失礼いたしますね。翔さん、また明日伺います。何か欲しいものがあれば連絡下さい」

「ああ、ありがとう」

するとそこへ看護師の藤井が話に割り込んできた。

「面会時間は午後の3時からになりますからね。必ず守って下さいね」

「はい、分かりました。それでは失礼いたします」

朱莉は頭を下げ、ベビーカーに蓮を乗せると病室を後にした。

――パタン

病室のドアが閉じられると、藤井が声を話しかけてきた。

「今の方が奥様ですか?」

「え? ええ。そうです」

「とっても綺麗な方でしたね」

藤井は体温計を取り出すと、翔のシャツの中に手を入れてきた。

「あ、あの! それ位自分で出来ますから!」

焦った翔は体温計を奪うように藤井から取ると、自分で脇の下に入れた。

「……」

その様子をじっと見つめる藤井。

「あの……何か?」

あまりにもじっと自分を見つめてくる看護師に困惑して翔は尋ねた。

「いえ。今迄この特別個室を使われた方は年配の方々ばかりで鳴海さんのようにお若い方は初
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